Chapter 2

屋根の葺き替えに
売電の利益を活用。

五箇山合掌造りの屋根の葺き替えに
売電の利益を活用。

売電による利益が地域の活性化に活かされている例として、上坂教授は五箇山を挙げました。五箇山といえば茅葺屋根の集落として世界文化遺産に認定されたところ。しかし地域の課題に屋根の茅葺きの維持費用がありました。「その課題に応えたのが2016年11月に運転を開始した富山県南砺市上平地区の小瀬谷発電所です」と上坂教授は言います。茅葺屋根は約十年に1度、葺き替えをしなければなりません。集落の人が総出で手伝うのですが莫大な費用がかかります。家の維持を諦める家主もでてきました。「そこで、小瀬谷支流の流れを利用した小水力発電を建設し、その売電収益を積み立てておき、茅葺屋根の葺き替え費用に充てるというアイデアでプロジェクトが動き出したのです。私どもの富山国際大学も協力して、運転開始にこぎ着けました」。
小瀬谷発電所は160kWの地域小水力発電です。しかし年間の売電収益を聞いて驚きました。上坂教授は続けます。「160kWの出力は200軒以上の電力需要をまかなえる発電量。その売電収益は年間で3000万円以上。五箇山のある上平地区にとってこの収入源は大きなメリットとなりました」。
その他にも売電によって地域の農業関係に活用するところなどもあって、小さな水力発電がもたらす売電利益は地域の維持や活性化の大きな一手になる例が増えてきたと言います。「建設コストはかかりますが、地域小水力発電は大きなリニューアル工事無しに50年、場合によっては100年も稼働させることが可能。長期的なスパンで見れば発電コストは再生可能エネルギーの中でも安くなります」と上坂教授。水から生まれる電気は、地球にやさしいだけでなく、地域の未来も明るく照らす希望の光になるということでしょう。

上坂博亨

全国小水力利用推進協議会代表理事。富山国際大学現代社会学部教授。1957年福井県生まれ。1980年、筑波大学第二学群生物学類卒業。1987年、筑波大学理学博士。富士通株式会社勤務を経て、2000年、富山国際大学地域学部助教授。2003年、フランス・欧亜ビジネス管理学院客員教授。2004年、富山国際大学地域学部教授。2013年より富山国際大学現代社会学部教授。2005年より全国小水力利用推進協議会理事。2017年より同協議会代表理事。