Chapter 3
温暖化は待ったなしの状態。
水素社会の実現は不可欠だ。
水素社会は来る?
いや、来なければいけない。
持続可能な未来のために!
「世界へ目を向けるとCO2排出量の削減、エネルギーの脱炭素化のためにドイツやフランスなどが水素戦略を推進し、水素燃料電池列車やバスが実証実験として導入されています。スウェーデンでも水素を利用した製鉄のパイロットプラントがすでに稼働。欧州全体で取り組みが活発化・具現化しています。国家間の連携も盛んで、ポルトガルとオランダは水素の輸出入に関する意思確認文書を締結した他、ドイツとオーストラリアも水素の輸出入に向けた調査の実施に合意。EUも多くの電解水素プロジェクトを計画しています」と大平さんは世界の動きを教えてくれます。日本でもトヨタ自動車は2020年12月、FCV(燃料電池自動車)の「MIRAI」をフルモデルチェンジし、その販売が話題となっています。
私たちが描く水素社会は確実に前進しているように思います。しかし課題や越えなければならないハードルはたくさんあるようです。「よくある誤解のひとつが、水素がすべてのエネルギーにとって変わると思っている人がいますが、そんなことはありません。太陽光など再生可能な次世代エネルギーのひとつとして水素があるのです。ただ、いろいろなエネルギーをつなぐ基幹的役割を担うのは水素になる可能性は大いにあります。しかし、課題もあります。生産コストが高いこともそのひとつです。水素の製造・輸送・供給というサプライチェーンを整えるには莫大な費用がかかります。たとえばガソリンスタンドなら建設費は1ヵ所1億円以下ですが、水素ステーションの場合は1ヵ所5億円も必要なのです。しかし将来は化石燃料の利用には制限がでてくるものと考えられます。経済活動への影響を最小化するためには、コストのことだけでなく、利用時の効率の向上などトータルに考えて進めていかなければなりません」。しかし、と大平さんは続けます。「ひとつ確かなことは、水素社会は本当に来るのかと疑う人がいますが、そういう問題ではなく来るようにしなければいけないのです。温暖化は待ったなしの状態になっています。持続可能な未来のためには、水素社会は実現させなければいけないのです」。機運高まる水素の利活用に私たちが関心を寄せることも、実現化に近づく一歩になることは間違いありません。
水素はこれまでに製鉄所などの産業部門において主に利用されていましたが、近年ではクリーンエネルギーとして自動車やバスなどの移動体の燃料に、家庭では電気と熱を同時に作るエネファームなどに活用されています。さらに今後は化石燃料の代替やエネルギー貯蔵手段としてさまざまなシーンでの利用が期待されています。
大平英二
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)燃料電池・水素室室長。1992年東京理科大学理学部卒業。同年NEDOへ入構。以後、経産省出向、NEDOバンコク事務所駐在、蓄電技術開発室室長などを経て、2018年7月から燃料電池・水素室室長を務める。
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